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仙台高等裁判所秋田支部 昭和46年(く)1号 決定 1971年3月21日

少年 B・H(昭二六・一一・二生)

主文

原決定を取り消す。

本件を青森家庭裁判所弘前支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、要するに本件非行については少年自身強く反省しており、また保護者をはじめ少年の雇主も今後再び少年が非行に走らないよう努力する決意をしているから在宅保護が可能であるのに少年を中等少年院に送致した原決定は処分が著しく不当であるというのである。

そこで、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも参酌して判断するのに、少年は原決定記載のとおり、昭和四三年二月以降本件非行に至るまでの間に無免許運転四回、速度違反三回、業務上過失傷害一回の交通関係の非行を反復し、さらに本件非行を犯すに至つたこと、少年は昭和四四年五月二四日青森家庭裁判所弘前支部において、右の無免許運転(四回目)と業務上過失傷害の非行により保護観察に付せられていたもので、右の速度違反はいずれもその後の非行でうち二回は少年法二〇条により検察官送致の処分を受けたことが明らかであり、また、本件非行中業務上過失傷害の事実は必ずしも少年の一方的過失により発生したものとは認めがたいが、酒酔い運転のうえでの事故で軽視しえず、以上の事実に照らすと少年は交通法規を遵守し交通の安全に協力する自覚と反省に著しく欠けているといわなければならない。そうして、鑑別結果によると、少年の性格特徴は自己中心的で軽佻性、衝動性が顕著で内省や自己統制力に欠ける点が指摘されるのである。

しかしながら、記録にあらわれた資料を総合すると、(一)少年に右のような性格的負因があり、また、少年自身自己の欠点や非行についての内省が十分であるとまではいえないとしても、鑑別結果にあらわれた少年の性格上の問題点は、鑑別所収容という結果が少年にとつて予期しないことであつたため、精神的に不安定な状態下におけるものとも考えられ、これを過大評価するのは相当でなく、少年じしんも本件非行により鑑別所に収容されたことで事柄の重大性にも気付くとともに自己の非についても反省しはじめていること(二)少年が祖母や両親の過保護のもとで育成し、自己の欲求を統制するための躾を身につけるための機会に恵まれなかつたことは窺えるけれども、その性格的なかたよりが必ずしも固定化しつつあるとまではいえないうえ少年の一連の非行には保護者自身の文通関係事件に対する安易な考え方が少年に反映している一面が窺えるのであつて、保護者の責任に負うところも少なくないというべきところ、本件を通じて保護者はこれまでの少年に対する接し方を反省し、親としての責任を果すべく少年の叔父や雇主の協力を求めて、今後は周囲から少年が同種非行にはしることのないようその環境を整えており、雇主も積極的に少年の指導態勢をかためていること(三)当裁判所の照会に対する東北少年院長の回答によると、同院にはこれまで交通関係事件のみで入所した少年はなかつたため、現在まで特別な処遇体制は存在せず、今後これらの少年に対しては、夜間単独処遇、グループカウンセリング、視聴覚教育等をとりいれ、またできるだけ他の少年との混合収容をさけるなどして、短期間に矯正効果をあげうる指導方針および指導方法を確立したいというのであり、少なくとも現段階では松山少年院内の交通専門の矯正施設のように、少年を一般保護少年から隔離収容して処遇することが不可能なことはもとより交通累犯少年に対し効果的な矯正教育を施すための十分な態勢が整つているものとはいえず、少年自身にとつても、交通関係事件で自分だけが少年院に収容されたという不満がむしろ先行し、このような状況のもとで原決定が予定する教育効果をあげうるかどうかかなり疑問であることが窺われる。もつとも、前記のとおり、少年は保護観察後に同種非行を反復しているところからして、もはや在宅保護による効果を期待することは困難ではないかという疑問も生じないわけではないが、記録ならびに当裁判所の照会に対する青森保護観察所長の回答によるも、少年保護者に対しこれまで具体的にいかなる指導、援護がなされてきたか必ずしも明らかでなく、少年の評価、処遇意見についても、保護観察成績回答書と保護観察官の原裁判所調査官に対する陳述との間にかなりのくいちがいが存在するのであつて、必ずしも強力な指導、援護が行なわれていたとは認めがたいから、前記(一)(二)の状況と既に少年が運転免許を取り消されていることをあわせ考えると、今後、保護観察官、担当保護司、保護者、雇主等が相互に連絡をとりつつ少年に対する指導、援護を強化すれば、少年の再非行を防止し、少年に自力で自己の欠点や一連の非行の原因を目覚させることも不可能ではないと考えられる。

以上諸般の状況を総合勘案すると、現段階では少年を中等少年院に送致するよりは、試験観察、保護観察(必要があれば新たな保護観察に付し、また少年審判規則三八条を活用することも可能である)等を活用し、在宅のまま強力な指導、援護を行う方が、少年自身にとつても、再非行防止のうえからもより妥当であると認められるのであつて、結局原決定はその処分が著しく不当であるといわなければならない。論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消して、本件を青森家庭裁判所弘前支部に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 恒次重義 裁判官 小泉祐康 川端敬治)

参考二 抗告の理由(昭四六・一・二一付法定代理人父)

一、少年B・Hは、これまでたびたび交通事故および交通違反をしてきていることについて、今回は厳しく自覚し、誠に申し訳ないと、心から後悔すると共に強く反省しています。

二、B・Hが少年として、これまでたびたび事故若しくは違反を犯してきたことについては、本人の責任は勿論のことですが、同時に交通公害とまでいわれ、世はあげて事故撲滅に努力している今日、親として必要以上の思いやりをもつて本人を反省させ、たびたび繰り返すことのないように努力すべき責務を怠つていたことによるもので私自身も深く深く反省しているところです。

三、事実B・Hは昨年七月から青森市にある○濃運輸株式会社青森営業所に運転手として勤務しており、勤勉につとめつつあるときでもあり、私としては家族は勿論のこと、親族並びに雇用主等の協力を得ながらB・Hを今一度真人間に立ちあがらせるために全力を尽したいと決意を新たにしておる次第です。

四、幸い雇用主である○濃運輸(株)青森営業所では○勝○所長をはじめ、所員一同が、B・Hに対してこれまで以上に暖かい気持で迎えいれ、独身寮で生活をさせながら、勤務時間はもとより日常生活についても充分配慮して指導監督してくれたことと、家庭とも連絡を密にしながらB・Hをして立派な青年に成長させるため、あらゆる努力と援助を惜しまないと約束してくれています。私としては本当に力強く感じ是非そのようにお願いしたいと考えております。(このことについては同営業所からも嘆願するといわれています。)

五、行政処分として運転免許を取消され更に中等少年院送致の決定を受けたことは上述の少年の環境の状況からしても著しく不当な処分と考えられ、少年の反省を助長することよりもむしろ自暴自棄におちいらせる恐れもあるように考えられます。

六、以上の観点からどうか原決定を取り消し何卒寛大なるご処分をお願い致したく申立する次第です。

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